COLUMNPosted on 2021/09/17

建築家とまちづくりの専門家が語る日本のクアオルトの未来 「クアパーク構想~健康という視座で公園を拠点にしたまちづくりを~」Part.2

前回のディスカッションでは、日本でのクアオルトは「まち全体が公園のようになっていることが基本」ということで着地。木材による遊歩道や車道分離といった、ディテールにも話が及び、建築やまちづくりの有識者ならではの自然や景観、歴史等の観点からも、日本のクアオルトが描く風景として、クアパークという未来予想図が語られました。

 

自然のなかに重要な要素がたくさんある

―日本ならではのクアオルトの特徴をどのように出していくべきでしょうか。

 

堀越英 自然豊かな地域には、今は忘れてしまっている大切な要素があると思います。かつて大学のセミナーハウスが福島県南会津町にあり、学生とセミナーに行っていました。南会津町はそば畑が美しく、川が流れ、水車が回り、温泉もある。この他、湯治場として知られる鳴子温泉に施設を増築する計画があり、見に行ったことがあります。川沿いのシンプルな建物に長期間滞在し、安いお金で食材が手に入り、自炊もできます。このような地域資源の組み合わせは、クアオルトや日本にとってプラスになると思っています。

 

―日本には候補となるロケーションがたくさんありそうですね。

 

堀越英 さらに、クアオルトは、自然と触れ合いながら孤独を楽しむ人が集まる
場所という一面があるべきだと思います。例えばパリにはカフェの文化があります。孤独な人が集まっても寂しくない場所をつくる演出がなされているわけです。カフェは建物と歩道の間に設けられた半屋外にあり、通りを歩く人と目線が合い、「見る」「見られる」の関係が生まれます。見られる場所というのは、都市だけでなく自然の中にいる時にも必要ではないかと思います。

 

―伝統的な日本家屋では、土間や縁側がカフェといえますね。

 

堀越英 日本の民家は数百年使われ続けてきただけに、よくできています。土間があることで、人がすっと入れます。土間には厨房があり、いろいろなものを料理できます。つまり民家の土間はオープンカフェと似ているんです。土間があって小上がりがあって、座って外の人と目線が合ってもおかしく感じない。日本の民家が持っている形式が、公共的な空間で利用できるのではないかと考えています。

 

 

都市の歴史や文化をクアオルトに

―堀越英嗣さんたちがつくった札幌市のモエレ沼に行くと、駆け出したくなる衝動に駆られます。それに比べて都市には五感をくすぐる仕掛けが少ないですね。

 

堀越英 五感を研ぎ澄ますには、情報量が重要で、自然の持つ情報量はものすごく多いです。都市は自然には負けますが、人間がつくり出した文化的な蓄積があるので都市探訪型のクアオルトができると思います。その際、ITのネットワークによって、歴史や文化の情報が瞬時に手に入る仕組みがあるとよいと思います。

 

後藤 例えば、東京と岐阜では、扱う木材も、木材に対する考え方も違います。
岐阜では職人を大事にする文化があり、我々のような木材販売業が生き残っています。都会でもそんなことを掘り起こす楽しみがクアオルトにもあってよいと思います。

 

堀越英 日本の伝統的な家屋は、プロの大工さんが修理するのではなく地域の人たちが持ち回りで直しています。そういう共同体というシステムとのセットなのです。クアオルトには参加型の要素が入るとよいと思います。長期滞在してサービスを受けるだけではなく、一緒にやるから面白くなるというシステムが大事だと思います。

 

―建築とか改築など、みんなで集まって「創る」というのは増えています。クラウドファンディングも出資して、参加型の案件が出てきています。

 

堀越英 私の大学の学生たちは有志で空き家改修プロジェクトの活動をしています。静岡県の伊豆や四国などで、自治体の民家を直して小さな公民館のような居場所を造った人や、伊豆の稲取で地域おこし協力隊に入って働いていた人もいます。自ら行動して、社会参加する気持ちが今の若い世代にはあります。

 

上田 印象的だったのは山形県上山市でのクアオルト健康ウオーキングでした。
朝起きて皆で歩いて帰ってきた後に食べる朝食はこんなにおいしいのか。帰ってきて入る温泉は確かに気持ちよいと感じさせられたのです。クアオルトは空間のデザインだと思っていましたが、上山で出合ったのは時間のプロデュースでした。そのような時間の要素を組み合わせた体験のプログラムが面白いと思いました。
健康なまちづくりは、普段から外を歩きたくなるまち、歩いて楽しいまちをつくることです。そうすると、人々が元気で活動的になって、まちが生き生きしてくる。人気の観光地について「住んでよし、訪れてよし」といわれますが、「歩いて楽しいまち」というのが日本のクアオルトではないでしょうか。

 

―健康の3要素「運動」「休養」「栄養」に加えて、第4の要素として何を掛け算するか。人とのつながりでも、歴史の探訪でもいい、人生を振り返って自分を内観するのもいい。人それぞれのクアオルトの楽しみ方があり、健康になって自分の人生の質を変えていく環境づくりがクアオルトの目標になっていくと思います。

 

今回は建築家やまちづくりの専門家の意見をうかがいましたが、日本クアオルト研究所では、クアオルトやクアオルト健康ウオーキングに関して、医療や公衆衛生、スポーツ科学の分野でも専門家にもinterviewを試みております。続きを読みたい方は、「賢く歩いて、人、企業、地域が変わるクアオルト・リテラシー」(大城孝幸著、日経BP)で詳しく紹介しています。

 

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堀越 英嗣

堀越英嗣ARCHITECT 5代表 建築家
1978年東京藝術大学大学院修士課程を修了、丹下健三・都市・建築設計研究所に勤務。主任建築家として、赤坂プリンスホテル、兵庫県立歴史博物館、愛媛県民文化会館、横浜美術館、パリ・イタリー広場基本計画、シンガポール・マリーナサウス再開発計画、ナポリ新都心計画等 国内外の多くのプロジェクトに参画。東京都新都庁舎競技設計一等当選案を担当後、同研究所退社。86年ARCHITECT 5を設立、共同主宰・代表建築家に。2001年鳥取環境大学教授、2004年〜2021年芝浦工業大学教授、2017年〜2021年建築学部長。2005年株式会社堀越英嗣 ARCHITECT 5を設立。
【主な作品】モエレ沼公園 ガラスのピラミッド他(イサム・ノグチと共同) 、鳥取フラワーパーク とっとり花回廊、新潟駅南口駅舎接続施設および駅前広場、旧SMEソニー・ミュージックエンタテインメント白金台オフィス、セルリアンタワー金田中、IRONY SPACE、五島美術館改修、正願寺 等
【主な著書・論文】くうねるところにすむところ 子どもたちに伝えたい家の本 家のいごこち、断面パースで読む 住居の居心地(編著)、ARCHITECT 5(共著)、アーキテクトファイブ 建築ジャーナル別冊(共著)、藤井厚二の体感温度を考慮した建築気候設計の理論と住宅デザイン(共著)、戦前の日本における先端設備としての床暖房・パネルヒーティングの住宅への導入(共著)、応答 漂うモダニズム(共著)

上田裕文

北海道大学准教授
東京⼤学⼤学院農学生命科学研究科森林科学専攻修了。ドイツ学術交流会(DAAD)奨学⽣としてカッセル⼤学建築・都市計画・景観計画学部、都市・地域社会学科で経済社会科学博⼠(Dr.rer.pol.)を取得。札幌市⽴⼤学講師を経て北海道大学准教授。専⾨は風景計画。先進地ドイツで学んだ樹木層の日本らしい在り方を提言している。近年は、日本造園学会の有志等で構成される「明治神宮とランドスケープ研究会」のメンバーとしても活躍。2021年7月11日に開催予定の、明治神宮国際神道文化研究所主催のシンポジウム「第二章MORI×MAGOKORO」において、『林苑計画書』から読み解く森の未来~「明治神宮とランドスケープ研究会とともに」~に登壇。
【主な著書】『「林苑計画書」から読み解く明治神宮一〇〇年の森』(共編著、東京都公園協会、2020年)、『地域創生デザイン論:今日“まち育て”に大学力をどう活かすか(共著、分眞堂、2020年)
『実践 風景計画学―読み取り・目標像・実施管理―』(共著、朝倉書店、2019年)、『こんな樹木葬で眠りたい』(単著、旬報社、2018年)、『明治神宮以前・以後: 近代神社をめぐる環境形成の構造転換』(共著、鹿島出版会、2015年)
『Basic and Clinical Environmental Approaches in Landscape Planning』(Co-author, Springer, 2014)
『Landschaften: Theorie, Praxis und Internationale Bezüge』(Co-author, Oceano Verlag Schwerin e.K., 2013)
『The Image of the Forest: Four Case Studies in German and Japanese Rural Communities』(Single Author, Südwestdeutsche Verlag für Hochschulschriften, 2009)

後藤栄一郎

1998 年一橋大学商学部卒業、米国クレアモント経営大学院ドラッカースクールに入学、P.F.ドラッカー氏に直接師事してMBA 取得。2004年後藤木材入社、2014 年社長に就任。物件の木質化、木材圧密大型製品の製造、岐阜県産材の海外輸出など、新しい切り口で木材流通加工業の業界改革を狙う。

堀越優希

建築家、2009年東京藝術⼤学美術学部建築科卒業。2010年リヒテンシュタイン国⽴⼤学留学。2012年東京藝術⼤学⼤学院修了。⽯上純也建築設計事務所、⼭本堀アーキテクツを経て、現在は一級建築士事務所YHAD主宰、東京藝術大学教育研究助手、堀越英嗣ARCHITECT5 デザインパートナー。