COLUMNPosted on 2021/10/12

地域と自然との共生を目指して ─森林の可能性を引き出す PartⅡ

森林の潜在的な価値を活用し、新産業を創出する

大城 ドイツでのクアオルト視察のときでした。山田さんが、白川村には世界遺産があって、年間170万人以上のお客様が訪れるにもかかわらず、背景にある森林が活用されていない。観光に森林での「健康」という視点を入れると、今後地域に貢献するはずだとおっしゃいましたね。

 

山田 白川村では、森林は観光の背景という視点のみで評価されがちですが、森には他にも可能性があると考えていました。一方で、観光は景気に左右される側面があり、そうではない流れの「健康」という視点が必要だと。観光だけでは使い切れないポテンシャルがあるのに、使わないのはもったいないです。

 

大城 林野庁は森林サービス産業創出に力点を置いています。関係人口の創出や地方創生を促進するため、豊かな森林空間を、「健康」「教育」「観光」などの多分野の産業と結び付けて新産業を生み出そうという流れは、山田さんの言葉を彷彿とさせるものです。

 

大城 林野庁は新たな森と人との関わりを「Forest Style」と呼んでいますね。乳幼児期から老年期までのライフスタイルに応じた森林との関わりを大別した「Forest Style」の表(下表参照)がありますが、教育や観光、健康まで御校は森林との関わりが深いですよね。

 

山田 トヨタ白川郷自然學校にはそれに該当する部分が半分ぐらいありました。これから、ニーズと社会的意義が高まる健康に関しては、人とお金が流れる構造づくりがサステナブルな経営、地域の維持につながると思います。

 

大城 20年7月、白川村が20年度の林野庁の補助事業、「森林サービス産業」のモデル地域に選ばれ、山田さんはそのプロジェクトで、森林資源を生かした企業のメンタルヘルス対策をサポートするツアーや滞在プログラムの商品化に向け、奮闘されていましたね。

 

山田 20年10月に健康経営や保険事業、健保組合などの担当者を対象に「メンタルヘルスを支える『良い睡眠』体感モニターツアー」を開催しました。クアオルト健康ウオーキング、ヨガ、健康フレンチ、保健師の保健指導や睡眠の質のチェックなどを盛り込み、新たなマーケットを掘り起こせました。

ドイツのアウディ社は健康経営の一環として、クアオルトで気候性地形療法を組み込んだ5日間の滞在プログラムを行っていると聞いています。将来的には、山形県上山市で実施している宿泊型保健指導のようなプログラムの商品化を目指していきます。

 

大城 森林の潜在的な価値を活用し、林業分野に医療、福祉業、観光・娯楽業、教育・学習支援業など他分野の産業と結び付けてビジネス化を図ることができれば、様々な社会的課題を解決する手段になると確信しています。

 

出典:林野庁「森林サービス産業~新たな森と人のかかわり「Forest Style」の創造~」の提案 ライフスタイルに応じた森林との関わりから「Forest Style」~をもとに日本クアオルト研究所で作成

山田俊行(やまだ としゆき)

トヨタ白川郷自然學校 學校長、NPO法人白川郷共生フォーラム常務理事。NPO法人日本ロングトレイル協会理事。JAPAN OUTDOOR LEADERS AWARD運営委員長。安藤百福記念 自然体験活動指導者養成センター事務局長(2011~13年)。15年4月より現職。ドイツ気候療法士の資格を有し、自らトヨタ白川郷自然學校コースを案内している。